レバノンとシリア

この正月に、シリアのアサド大統領が、レバノンのハリリ元首相暗殺に関わっていたのではないか、という記事が出た。レバノンとシリアの関係については、日本ではあまり知られていないが、中東情勢を知る上で、結構シリアという国の歴史を知ることは重要だ。シリアはイラクとも敵対し、シリアの息のかかったテロリストもイラクに入国してくる。アサドの独裁政治が続いているので、その意味では「問題国家」なのだろう。アメリカはシリアを「悪の枢軸」と決め付けている。イラク戦争が泥沼化しなかったら、次はシリアを空爆したのかもしれない。
いずれにせよ、国連の調査が入っており、今後ますます、アサドは窮地に陥っていくだろう。で、以下は毎日新聞に書いたもの。

レバノン・ベイルートは美しい街だ。前方には青い海、後方には雪を抱いた山々がそびえている。レバノンは中東では珍しく、キリスト教徒が人口の約半数を占める国なので、お酒には寛大。レストランでおおっぴらに赤ワインを楽しめる。私にはとても過ごしやすい国だ。
今年2月、この美しい街ベイルートでハリリ前首相が暗殺された。暗殺現場は現在も立ち入り禁止。大きなホテルが丸ごと吹っ飛び、近隣の商店街も焼け崩れている。暗殺というとゴルゴ13のようなスナイパーの銃撃を想像するが、ハリリの場合はホテルごと吹っ飛ばす大規模なもの。「狙った獲物は確実に殺す」という、明らかなプロの仕業だ。
ハリリ暗殺は隣国シリア政府の関与が噂されており、実際この暗殺事件で国際世論は「シリア非難」に転じ、レバノンを実効支配していたシリア軍が撤退。レバノン情勢は劇的に変化した。
ベイルートの国連前にはテントを張って座り込む集団がいる。テント周囲には数多くのセピア色の写真。「息子たちはいつまでシリアの牢獄につながれねばならないのか」アラビア語の横断幕がかかっている。そう、彼らはシリアによって息子や夫を拉致された被害家族。今年の4月からこのテントで泊り込みを続けている。シリア軍が撤退したので、「言論の自由」が復活したのだ。
ハナ・アフマドさん(56歳)が息子ムスタファ君(当時16歳)の写真を持って座り込んでいる。1980年ムスタファ君らは、友人たちと街頭テレビに熱中していた。イラク対シリアのサッカーが中継されていた。試合は一進一退の好ゲームで、終了直前、イラクが劇的な決勝ゴール。イラクチームのファンだったムスタファ君はテレビの前で万歳と叫んだ。
「シリアが負けて喜んでいる少年たち」を、物陰からシリア秘密警察がチェックしていた。翌日、街頭テレビの前で歓声を上げた少年たち約30人が一斉に行方不明となった。以来息子は還ってこない。25年の月日をじっと耐えて待つ母。その顔には深いしわが刻まれている。
「息子さんは生きているの?」「生きていると信じている。私はね、息子を探しにシリアを旅行したのよ。息子と同じ監獄で過ごした人から、『ムスタファは生きている』という証言を得たわ」「今までは拉致家族は公の場で声を上げることができなかった?」「そう。ハリリが暗殺されてシリアが撤退するまでは。こうして国連の前で毎日『奪還』を訴えているの」。
ハナさんのインタビューをしている間にも、「俺の息子の写真を見てくれ」「私の夫は1978年に…」などと拉致家族がわんさと寄ってくる。そうした家族に「横田めぐみさんを知っているか?」と尋ねた。ほとんどの人が首を振ったが、中には「聞いたことがある、北朝鮮だろ」という人も。何しろシリア、イスラエルの犯行と考えられるレバノン人行方不明者は、千人単位だと言われており、こちらでは「石を投げると拉致家族に当たる」という状態。はるか日本の拉致被害者の情報はあまり入っていないようだ。
レバノンは南にイスラエル、北にシリア。国内はキリスト教徒とイスラム教徒が約半分ずつ。長年続いたレバノン内戦は、イスラエル対シリアの代理戦争の様相を呈し、その過程で、キリスト教徒はシリアに、ムスリムはイスラエルに拉致されていった可能性が高い。
ベイルートにはまたイスラエルによって2千人以上が虐殺されたパレスティナ難民キャンプがある。入り組んだ路地に建物がひしめきあって建っており、下水や道路が整備されておらず、そこだけが「発展途上国」のようだった。レバノン内戦の引き金も、やはりパレスティナ問題だ。中東諸国の歴史をたどると、結局はパレスティナ問題に行き着く。

実は、シリアもアメリカにとっては重要な国だ。イラクからの石油はシリアを通って地中海につながる。このパイプラインの敷設をめぐって利権が絡む。
ここでも、「オイル」が隠れたキーワードだ。

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このページは、nishitaniが2006年1月 8日 12:01に書いたブログ記事です。

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