06年5月 イラクレポート1回目

5月19日にイラクより帰国し、6月18日までイサームと一緒に各地を講演して歩いていたため、5月6月はあっという間だった。少し余裕が出てきたので、5月のイラク入りについて、まとめたものを掲載したい。
以下は、毎日新聞に書いたもの。
イラクの首都バグダッドやその周辺では、連日100人単位で人が殺されている。アメリカの空爆、アルカイダ系の自爆テロ、シーア派によるスンニ派の殺害、そしてその報復…。
そんな戦争状態のイラクに入国するのは大変危険だ。日本人である私は目立つ存在であり、すぐに拉致の対象となるだろう。万一身柄を拘束されるなんてことになれば、死の恐怖とともに、私や家族の上に「自己責任」がのしかかってくるのは明白だ。
危険性は重々わかっているつもりであるが、今回はなんとしてもイラクに入国したかった。アメリカ軍が使用した「劣化ウラン弾」による被害をこの目で確認したかったからだ。前回はバグダッド空港で「寸止め」され、ヨルダンのアンマンまで「強制送還」されるという苦い経験があるから、空路で入るのは駄目だとわかっていた。空港ではイラク政府が網を張っていて「日本人は入国させない」方針。ではどうすれば…。
06年5月10日、私はトルコ〜イラク国境までたどりついた。「名前は?」「職業は?」私だけが別室に連れていかれ、トルコ軍兵士の尋問。「なぜ私だけ?」と質問すると、「お前が拉致されたときのための証拠記録だ」と、物騒なことを言う。国境は川になっていて小さな橋を渡ると、もうそこはイラク。イラク側では「クルド愛国者同盟」(PUK)のジープが待っている。運転手と護衛2人。手にはカラシニコフ銃がしっかりと握られている。
クルド人は世界最大の少数民族で、トルコやイラク、イランなどにまたがって住んでいる。
イラクにすむクルド人に対して、サダムフセインは過酷な弾圧を加えた。とりわけ88年2月から始まったアンファール作戦という大虐殺で、10万人以上のクルド人が殺され、現在もなお難民となって避難している人は多数。一方トルコ政府はどうかというと、クルド語を禁止するだけではなく、クルド人のことを「山岳トルコ人」と呼び、存在すら認めないという態度。
dara.JPG今回の旅はそのクルド人たちに守ってもらった。国境から目的地スレイマニア市まで車を飛ばす。道幅の広い国道は、自警団による検問があったりするので非常に危険。検問で拉致収監されないとは限らない。できるだけわき道にそれながら進む。といっても見渡す限りの平原に出てしまうと、逃げようがない。何か所か簡単な検問があったが、護衛メンバーがPUK幹部の身分証明書を持っているので、幸いにもトラブルなく通過。本来なら3時間程度で着く道のりを、8時間もかけてようやくスレイマニア市に到着。
スレイマニアがん病院へ。写真の子どもは9歳のダーラ君。重症のリンパ腺がんで、2週間前に手術を行い、2kgもある腫瘍を取り除いたばかり。彼はキルクークという石油で有名な町の出身。キルクークはアメリカ軍による激しい空爆が行われたところで、「劣化ウラン弾によるものに間違いないだろう」とは手術に当たったシュワーン医師の言葉。
白血病の子どもアラント君はハラブジャの出身。ハラブジャは88年3月に、フセインによってサリンガスなどの化学兵器が撃ち込まれた町で、その後遺症に悩まされる人が後を絶たない。「この病院にやってくるのはキルクークかハラブジャ出身者ばかり。劣化ウラン弾か化学兵器か。薬が足らないので手遅れになるケースがほとんどだ。そうだな、生存確率は10%くらいではないか」シュワーン医師が怒りを込めて訴える。
アメリカが投下した劣化ウラン弾、そしてフセインの化学兵器。どちらも大量破壊兵器である。放射性物質も化学毒性も、その被害は後世にまたがって広がっていく。
「人々は汚染された農作物を食べている。とりわけ子どもに被害が集中するのだ」。シュワーン医師の言葉を聞きながら、ヒバクシャとミナマタを思い出す。

毎日の連載は、隔週土曜日。特にサマワからの陸自撤退、空自の活動強化が、この夏に行われる見込みなので、最新情報で書きたいと思っている。

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このページは、nishitaniが2006年7月 5日 11:16に書いたブログ記事です。

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