トルコ国境の村を取材 その2

ご存知の方はご存知だと思うが(当たり前だ)、トルコとクルドは長年敵対関係にあり、トルコ政府はクルド人の存在すら認めず、クルド人を「山岳トルコ人」「トルコ語を忘れたトルコ人」と呼び、差別してきた。PKKはそのトルコからの独立をめざして闘っている長年の仇敵である。たまにイスタンブールなどで自爆テロがあるが、ほとんどはPKKの犯行である。今回の空爆、表向きの理由は、頻発するPKKのテロ行為に対する制裁である。しかしPKKのテロは今に始まったことではなく、さらにトルコ領内ではなくイラクにまで侵犯し、空爆を繰り返すのは「異常事態」だ。もし民間人に死傷者が出たら、「自衛」ではなく明らかな侵略行為となり、トルコは窮地に立たされる。おそらくトルコ軍は「人に当たらないように」空爆している。
つまり空爆は「アメリカに対するけん制」ではないか。アメリカはイラクの泥沼にはまり込み、今やイラク領内のクルド人政府だけがパートナーのような状態。治安の安定したクルド地域だけ投資が進み、先日も石油会社とクルド政府が油田開発で先行契約を結び、スンニ、シーア、トルコマンなど、その他の諸派閥を激怒させたばかり。
この状態はトルコのみならず、シリア、イランにとっても望ましくない。なぜか?
もしこのままイラクのクルドが事実上の独立を勝ち取り、石油利権、イラク復興利権をはじめとする莫大な権力を手にすれば、当然その「勝利」は、トルコ、シリア、イランのクルド人たちに伝染し、「独立をめざす戦い」に火がついてしまう。今までなら多少クルドを弾圧しても、国際社会(西側)は黙っていたが、イラク戦争後は状況が一変している。アメリカがクルドの後ろ盾なのだ。
一方トルコ政府はというと、イラク戦争に関連した米軍の軍事物資の内、70%近くをトルコ基地経由で運んでいるのをはじめ、必死で西側に協力してきた。キリスト教が主体であるEU諸国に配慮し、トルコ政府は極力「イスラム色」をなくして、EU加盟を目指してきたのだ。今までの努力は一体なんだったのか?
そこにトルコを激怒させる「事件」が起こった。10月10日にアメリカの下院で「オスマントルコによるアルメニア人虐殺非難決議」が通ってしまったのだ。アルメニア人虐殺に関しては、トルコではタブーと言うべき問題で、いまさら、そしてなぜこのタイミングでアメリカがこんな決議を出してきたのか?トルコから見れば明らかな「挑発行為」なのである。実はアルメニア人虐殺はオスマントルコ政府が行ったもので、今のトルコ政府の犯罪ではない。もっと言えば、第一次世界大戦でイギリスはオスマントルコを解体するために、「アラビアのロレンス」こと考古学者のロレンスを使ってアラブ人を組織、北からはイギリス軍が、南からはアラブ軍がオスマンットルコを攻め立てて、大戦に勝利した。大戦後トルコは分割され、事実上英仏の植民地状態に。その中で立ち上がったのがトルコ建国の父、ケマル・アタチェルク。現在のトルコ共和国成立の歴史からいっても、アメリカの「アルメニア人虐殺決議」は無視しておいても良かった。しかし事態は逆に動き、トルコは駐米アメリカ大使を召還し、国務大臣の訪米も急きょ取りやめた。つまりトルコはまんまと「アメリカの挑発に乗ってしまった」のである。
事態は戦争へ戦争へと動いている。PKKはもちろん、トルコにとってもアメリカにとっても戦争によって得るものは少なく、失うものは大きい。なぜそこまで突っ張るのか?
「これでまた戦争ができる」とにんまりしている武器商人にとってはメリットがある。さらにこの動きにつられて原油価格が急上昇している。「虐殺決議」を仕掛けた裏には、やはり「石油価格の操作」によって大儲けをたくらむグループがあるのではないか?
このまま原油高が続けば、間違いなく巨額のオイルダラーが転がり込む。誰に?湾岸の産油国?メジャー?ヘッジファンド?それとも…。
何はともあれ、今のところ死者がでていないのが不幸中の幸い。今は「小競り合い」程度で済んでいるが、これ以上空爆が続くと、やがて大きな戦争につながりかねない。それにしても不幸なのは、狙われているPKKではなく、一般市民であるということだ。

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このページは、nishitaniが2007年10月20日 02:14に書いたブログ記事です。

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