売春と戦争

3月17日は、スレイマニア市内にある「女性文化センター」を訪問した。ここはドイツのNGOが運営する、クルド人女性のための「人権擁護センター」である。なぜストレートに「人権擁護」とせずに、「文化」としているのかというと、「女性の地位向上」を望まない旧来の男性家父長勢力から攻撃されるので、「文化センター」と名乗っている。

ここクルドの女性たちにとって、「伝統的部族社会」のしきたりから逃れることは難しい。例えば結婚。好きな男性がいたとしても、しばしば結婚は部族長や父親が勝手に相手を決めてしまう。よくあるのは、若い娘を金持ちの男性に嫁がせ、多額の「結納金」をせしめる、というパターン。親から押し付けられた相手に対して、結果的に愛が芽生えるのならそれでもまだ救われるが、その男性が家庭内暴力をふるったりした場合は最悪だ。

法律では認められているものの、離婚など考えられない国であるから、彼女は一生を夫の暴力に耐え忍ぶか、自殺するか、それとも夫を殺してしまうか、失踪するしかないのだそうだ。実家に帰ればいいじゃないか。日本ではそう思うだろう。しかし、彼女は実家の父親や男のきょうだいから殺される可能性が高い。いわゆる「名誉殺人」である。

不倫問題もある。望まない結婚を強いられた場合、愛している男のもとに走ったとしよう。その場合、男は罪に問われないが、女は3年間の懲役だ。

もっとよくあるパターンは、婚前交渉。愛する男に、求められて身体をゆるしたのはいいが、その男が彼女と結婚しなかった場合である。やはりこの場合も「男との交渉があった」と家族にばれてしまった場合は、彼女は実家に住むことができない。

上記のような女性は、結局どうなるか?売春婦になる場合が多いのである。他に収入のすべがなく、一人で、あるいは子どもと一緒に生活する手段として、売春せざるを得ない状況に追い込まれる。
さらにここで「イラク難民女性」が加わる。戦争で夫を失った彼女たちもまた、売春せざるを得ない状況下になるのだ。

先日、クルド政府はいっせいにスレイマニア市内で「売春婦狩り」を行い、85名のイラク難民女性を検挙した。政府はクルド自治政府とイラク政府との「国境」まで彼女たちを連れて行き、そこに放り捨てたという。売春婦を斡旋していた業者は逮捕された。

「女性文化センター」は、そんな女性たちの、一種のシェルターのような存在だ。クルドの伝統的な部族社会の後進性と、イラク戦争が、二重に、弱い立場の人々を苦しめている。

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このページは、nishitaniが2008年3月19日 15:01に書いたブログ記事です。

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