民間軍事会社に潜入

私はこの間、戦争の民営化について若干の調査・研究をしてきた。今回、うまくいけばイラクにおける民間軍事会社(PMC)の実態を取材できるかもしれないという期待を抱いていた。3月20日、ちょうどイラク戦争から5年のその日、彼らは私の宿泊するホテルにやってきた。同じホテルに泊まる、クルド自治政府の要人を、どこかへ移送するためであった。一目でそれとわかる格好をした白人が、ホテルの玄関でタバコを吸っている。
何気なく近づき、声をかける。

「どこから来たの?」「ニュージーランドだよ」「イラクへはビジネスで?」「そうさ、もう4年もここに住んでいるんだ」。
スミスさん(仮名)の右腕には青い刺青が見え隠れする。スキンヘッドにコンバットブーツ。彼らの車、トヨタのランドクルーザーの中をちらっと覗き見すると、カーキ色の防弾チョッキとAK47砲。間違いない。

果たして彼はイギリスの民間軍事会社「ノース・スター」の契約社員だった。「バグダッドに行きたいんだ。でも危なくてここにとどまっている。あなたたちなら私をバグダッドに連れて行けるかい?」「もちろんだよ。俺たちには装甲車が2台、そして豊富な経験がある」。
陽気な、人の良いニュージーランド人。イラクへははじめてきたので、不安でしょうがない。何とかエスコートしてほしい、と客を装って話を進める。若干後ろめたいが、後日彼の事務所で、打ち合わせをすることになった。

3月21日、スミスさんの案内で「ノース・スター」スレイマニア本部事務所へ。「日本の会社のボスに、ノース・スターのことを伝えねばならない」と言って、撮影許可を得る。ただしスミスさんの顔出しは厳禁だ。「テレビなどで放映されると、ゲリラに襲われるからね。絶対に顔は写すなよ」とスミスさん。

この会社は、軍隊を除隊したイギリス人とアメリカ人によって2006年に設立された。社員は12名。ニュージーランド、イギリス、スゥエーデン、オランダなどの軍隊経験者が6名、現地で雇ったクルド人が6名。スミスさんは21年間、ニュージーランドの軍にいて、そこを除隊し、イラクで4年働いている。

気になる値段だが、一人雇って一日700ドル。バグダッドに行くには、最低でも2台の車が必要。私に2人の護衛がつき、カメラマンの吉田君にやはり2人の護衛が必要。つまりバグダッドへ行こうと思えば、人件費だけで一日2800ドル、最低でも約30万円の経費がかかるのだ。その上に装甲車を使った場合のオプション費用や、護衛を増員した場合などを考えれば、1日50万円は必要になるかもしれない。スレイマニアからバグダッドに入り、最低でも2日間宿泊したとすると、2泊3日で合計150万円也が、この民間軍事会社に入ることになる。これは「ビッグビジネス」ではないか。
「俺たちは、イラク全土に情報ネットワークを持っていて、毎日どこで何回の爆発が起こり、何人が死傷したかなどの情報が入る。この情報に基づいて、車の台数や護衛の人数を決める」スミスさんは、パソコンに収められた「デイリー、セキュリタリー、インフォーメーション(治安状況報告書)」を見せてくれる。
報告書にはイラク全土の地図が載っていて、危険度を赤と緑で示している。スレイマニアは緑で、キルクークは薄赤、バグダッドは真っ赤である。

「インテリジェンス(諜報)が一番大事なんだ。ボスがネットワークを持っているから、わが社に任せてもらえば、安全だよ」スミスさんは自信ありげに、コーヒーを飲み干した。
ノース・スター社では、ジャーナリストや要人の警備のほかに、ペシャメルガ(クルド兵士)やイラク国防軍に、軍事技術を教えている。
「AK砲の撃ち方や、路肩爆弾の処理の仕方などを教えるのさ。3日間の特訓コースで一度に20人ずつ教えている。だから普段は多忙なんだよ」。

クルドの正月、ノールーズ祭のため、スミスさんはこの日、たまたま仕事がなかったのだ。
スミスさんは、日本の航空自衛隊が物資を運ぶ、タリル空港にも宿泊していた。
「広大な基地だよ。基地の中では何でもそろう。エアコンもバッチリで快適さ」。その基地の外では、イラク市民が、エアコンはもちろん、電気も水もなく、恐怖の中で暮らしている。
イラク戦争は、歴史上最もアウトソーシングされた戦争だ。このような民間軍事会社の親会社は、ハリバートンやカーライルグループ。ハリバートンはチェイニー副大統領の、そしてカーライルは親子ブッシュの会社である。


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このページは、nishitaniが2008年3月23日 01:44に書いたブログ記事です。

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