厳冬のカブールで 3

3時半、ガチャッと音がして扉が開く。はじめて見る「正真正銘の」タリバンである。扉の向こうに現れたのは…。

現れたのは、少しふっくらした感じの、温厚そうなイスラム聖職者だった。「初めまして。私は日本から来た…」緊張しながら握手を交わす。失礼のないように気を使いながらも、肝心なところは聞かねばならない。緊張のインタビューを始める。

―お名前と現在の肩書きをお願いします。
「ムタワッキル。カンダハール市出身で、タリバン時代は外務大臣を務めていたが、今は普通のカブール市民である」

―タリバン政権が崩壊して、あなたは米軍に逮捕されたのですね?
「そう、カンダハルの刑務所に3年、バグラムの刑務所に2年」

―なぜあなたは逮捕されたのですか?
「わからない。なぜなのか、米軍に聞いてくれ(笑)」

―刑務所では拷問されたりしましたか?
「拷問はなかった。私は他の囚人より丁重に扱われたようだ。刑務所内でも新聞などが読めた」

―なぜ他の囚人やタリバンメンバーより、あなたの待遇が良かったのでしょうか?
「私は外交官だったので、戦闘行為には携わっていなかった。武装して戦ったメンバーは、私よりひどい扱いをされていたようだ」

―5年後に、米軍はなぜあなたを釈放したのでしょうか?
「釈放されたのは私だけではなかった。アメリカがタリバン時代の外務省を調べ上げたが、何もアルカイダやテロとの関係は出てこなかった。だから彼らは私を釈放したのだ」

-現在のカルザイ政権について、どう考えておられますか?
「3つの問題を抱えている。1つは、内戦に起因する民族・部族の問題。2つ目が政権自体が汚職にまみれていること。3つ目が麻薬の問題だ」

-先の大統領選挙で、カルザイとアブドラが争いましたが、あなたはどちらを支持していましたか?
「どちらもダメだ。誰が大統領になっても、この国の国民を救うことは難しい。それは、米国やパキスタン、ロシアやイランなど、大国からの干渉が常にあり、予算や権限が制限されているからだ。しかしアブドラに比べてカルザイがマシであろう。なぜならカルザイは最も国民に知られていて、行政経験があるからだ」

―米軍やISAFがこの国に駐留していることについては、どう感じられていますか?
「彼らが駐留しているために、この国は大変混乱した状況である。疑問が3つある。1つは、米軍の敵は誰なのか?アルカイダか?タリバンか?それとも一般市民なのか? 2つ目は、こんな戦争をいつまで続けるつもりなのか? オバマが3万人の米兵の増派を決めた。終わりが見えないではないか。 最後に『テロリストの定義』とはいったい何で、誰が決めるのか?米軍やISAFは、これらの疑問に、まったく答えていない状況だ」

―アフガニスタンを平和な国にするためには、どうしたらいいでしょうか?米軍と戦い続けることなのか?それとも話し合うことができるのでしょうか?
「両方が必要だ。時には戦うことが必要だ。しかし戦争がいいか平和がいいかと尋ねられれば、もちろん平和がいい。しかし現状では話し合うことも難しい。戦おうとするグループと話し合おうとするグループ、双方の意見を聞いて判断したい」

―カルザイが勝利した選挙について、どう思われますか?
「誰もあの選挙が公平に執行されたとは思っていない。この国のメディアは2人の候補の広報のような存在に成り下がっている。不正な投票があった。しかしこの国では民主主義がまだ育っていない。本当に選挙で選ぶのが民主主義なのか?あれだけの不正があって、民主主義が貫かれたとは思わない。

-2人に代わる、国民を救えるような候補者はいますか?
「特定人物を挙げることはできない。今、この国は戦争をしている。誰が大統領になっても、対立勢力から足を引っ張られる。誰がふさわしいかというより、公平に政治ができるためのシステムを作ることが先決だ。汚職のない、公正な政府を作ることが先で、公正な選挙はその後になるだろう」

―パキスタン・タリバンとアフガン・タリバンの違いは何ですか?
「目的が違う。パキスタン・タリバンは、より『イスラム原理主義』に近く、シャリーア(イスラムの教え)によって行動する。アフガン・タリバンは、明らかに占領軍を追い出すために戦っている。米軍を追い出して、人々が望む政権を作ることを目的としている」

―タリバンの中に「武装タリバン」と「穏健タリバン」がいると言われていますが?
「私たちは全て同じ、タリバンである。米軍が戦争するから極端になるグループがいるだけだ。私たちをイスラム原理主義者と呼ぶなら、米国にもキリスト原理主義者がいるではないか」

-自爆攻撃についてどう思いますか?イスラムでは自爆は禁止のはずですが。
「米国とアフガン国民の間には、圧倒的な力の差がある。米軍は最新兵器で空爆してくる。私たちがそれに対抗するには、『新たな手段』が必要だった。リベンジするために戦争の技術の一つとして、自爆攻撃がある。君たちの国、日本にも昔あっただろ?」

―神風特攻隊がありました。
「アフガンも同じ。追い込まれた人々には、自爆しかないのだ。フィリッピンでもスリランカでも同様のことが起きている」

―今のオバマ大統領をどう考えますか?
「米国の戦略が、彼1人で決まっていくわけではない。オバマ個人ではなく、オバマ政権としてみることが大事だ。アフガンについていえば、ブッシュもオバマも一緒だ。彼は戦争をする大統領だ」

―そんなオバマにノーベル平和賞が出ましたが?
「早すぎる。もし彼がイラクでもアフガンでも、戦争を終わらせることができたのなら、そこで授与すべきだ。選考委員の見識を疑う」

-日本政府がアフガン支援として50億ドルを支出することを決定した、というニュースはご存知ですか?
「知っている。民生支援してくれるのは歓迎するが、しかし金よりも必要なのは平和と安定だ。国際社会に、アフガン戦争を終わらせることを提案してほしい。その後、汚職のない政府ができてから、金を援助してほしい。今のまま大金を注入しても、きれいな服を水につけて着れなくしてから、その服を恵んでいるのと一緒だ。
しかしインド洋での給油をやめることは、良い考えだ。インド洋で米軍やパキスタン軍に給油することは、空爆の手助けをすることに他ならない。多くの人が空爆で死んでいるのだ」

-最後に、日本人へメッセージを。
「まず最初に、日本がアフガンへ軍隊を送らなかったことに感謝する。日本政府はカブール空港を建設してくれた。多くの学校も作ってくれた。これにも感謝している。日本は国際社会に影響を持っているので、平和を構築するための世論を作ってほしい。お互い戦争では悲惨な経験をしてきた。戦争の悲惨さを知っている国として、ぜひ平和を勝ち取るための努力を、世界に訴えていってほしい」

インタビィーの最後に、「あなたは日本憲法第9条を知っていますか?日本は武器を持たないと宣言したのです」と言うと、通訳のイブラヒームが「ホワット?9条?何なんだそれは?」と聞き返してきた。「えーっと、9条はというとね…」と説明しかけたとき、ムタワッキル師が、「I KNOW」と一言。

彼は9条を知っていたのだ。なんとタリバンの元外務大臣が日本の平和憲法9条を知っていて、それはすばらしい考え方だと言うではないか。
感動した私は、長く、堅くムタワッキル師と握手した。

握手しながら、私は自身の無知を恥じた。私も米国発の「イメージ操作」に毒されていたのではなかったか?タリバン=悪、恐怖という。
タリバンの中にもいろいろな人物がいる。少なくとも、タリバンの元外務大臣は平和主義者であった。   

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このページは、nishitaniが2010年1月11日 01:22に書いたブログ記事です。

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