湯川さん事件の背後にあるもの

シリア北部のアレッポで湯川遥菜さんが「イスラム国」に拉致されてから、ほぼ1か月が経過した。この事件の第一報が飛び込んで来た時、私はアフガンの首都カブールにいた。アフガンの携帯電話が突然鳴り出して、朝日、読売、毎日、東京、フジ、NHKなど、いろんなメディアから取材を受けた。
そのほとんどが「湯川さんとは知り合いか?」「イスラム国とはどんな組織?」「生死は?」「民間軍事会社とはいったい何か?」などであった。
シリアに潜入して、この内戦を取材している側からすれば、「毎日100人単位で市民が虐殺されている事実」を、もっと掘り下げてほしかったのだが、どうも日本のメディアは、「日本人が関わったときだけ」大騒ぎする傾向がある。2004年のイラクでの人質事件とそれに続く自己責任バッシングのときもそうだった。あの時、メディアは「米軍によるファルージャ大虐殺」を伝えるべきで、「虐殺をするから、イラク人が武装し誘拐事件も起こったのだ」という、戦争の非道さについて、報じるべきだったと思っている。実際には「危険なところに行く迷惑なヤツら」など、戦争の本質から外れた「歪んだ論調」がこの国を支配した。
古くは、ペルー日本大使館人質事件の時、フジモリ政権が大使館に突入してゲリラを殺害した時の、日本の新聞の見出しは「全員無事!」だった。おいおい、ゲリラはみんな殺されているぞ!と、その見出しに突っ込んだものだった。
さて、今回の湯川さんの事件であるが、なぜテレビや新聞社が私の携帯に電話をかけてきたかというと、彼がシリアに出発する前に、私のフェイスブックに友達申請してきて、私がそれを承認して、フェイスブック上の友達になっていたからである。
「私もアレッポの最前線に行っている」「民間軍事会社を経営している」などの書き込みと動画があったので、「すごい人がいるんやなー」と思っていた。
そんな矢先にこの事件が起こった。彼はトルコ側からシリアに入ったと想像され、すぐにトルコのリハニーヤに駐在している自由シリア軍の友人と、メールと電話でやり取りを始めた。リハニーヤでも、「日本人拘束される」というニュースが駆け巡っていた。自由シリア軍の幹部が、国境を越えてアレッポをめざすといい、実際に交渉すべくアプローチをかけてくれていた。リハニーヤからアレッポまで車を飛ばせば5時間程度。危険だが、一刻の猶予も許されない。イスラム国と交渉できるのは、ごく限られた幹部クラスだけだ。彼からの報告を待っていた。
カブール時間の早朝、最悪のニュースが飛び込んで来た。「イスラム国」の広報担当、オマール・ジャルビーという人物が、「湯川を処刑した」とネットで発表した。同時にリハニーヤの自由シリア軍兵士たちから、「湯川さんはスパイだと思われている。彼は銃を持っていた。また彼のホームページにカラシニコフを撃つ動画があり、イスラム国はそのホームページにたどり着いている」との報告があった。「スパイ容疑で捕まえた人質は、すべて処刑するのがイスラム国のやり方だ」という説明もあった。状況は絶望的だと判断した私は、「処刑した」ことにたいする怒り、イスラム国の残忍さ、彼らは真のイスラム教徒ではない、ことなどをつぶやいた。その後、イスラム国からの発信が途絶えた。「湯川氏はまだ生存している」という情報も流れ出した。現時点で(9月14日)、イスラム国からは、新たな声明も映像も流れてこないので、彼の安否は不明である。「処刑されてしまった」と思い込んで、ツイートしたことに対して、まずはお詫びしたい。その上で、今後もトルコの自由シリア軍と連絡を取り合って、最新情報の取得につとめていきたい。

湯川氏は民間軍事会社のCEOを名乗っていた。民間軍事会社とは一体何なのか?この問いに答える前に、私たちは古いステロタイプの「戦争の常識」を捨てなければならない。戦争とは国と国がするもの、宣戦布告があるもの、戦場があって、その国の軍隊が戦っているもの…。これらは全て20世紀型の戦争である。今や戦争の主体は、国家なき民兵であり、戦場は普通の都市であって、戦争が民営化されている。そう、民営化されるのは郵便局や市民病院だけではないのだ。
例えば、イラクやアフガンでは、治安権限が米軍からイラク軍、アフガン軍に委譲されている。政府の要人、石油企業の役員、日米欧の大使館員たちは、イラク軍やアフガン軍に守ってもらっているわけではない。莫大な費用を支払って、民間軍事会社の兵士に身辺を警護してもらっている。イラク軍やアフガン軍では、その警護技術に不安があるし、なにより反米感情が地元住民の中に強烈に残っているので、「アフガン軍の制服を来たタリバンのシンパ」もいる。だから高額な警備費を支払ってでも、「セコムやアルソックの戦争版」を雇うのだ。
民間軍事会社は、米英軍や南ア軍、仏軍などの特殊部隊を退役した、「普通の軍人よりも力強い人々」が構成メンバーになっていることが多い。防弾車、機関銃、暗視スコープなど、装備も優れている。因みにカブールで防弾車を1日チャーターすれば100万円だ。兵士を2〜3人雇えば、それだけで数十万円。これを一か月続ければ…。毎月何千万もの巨費が民間軍事会社に注ぎ込まれる。つまり民間軍事会社に取っては、治安が悪くなればなるほど儲かる仕組みなのだ。
湯川氏はシリア入りする前に「大きなビジネスチャンスだ」とつぶやいている。これはどういうことだろうか?
その答えは、集団的自衛権だと思う。今後、安倍内閣が強引に自衛隊を海外に派兵すれば…。そこには日本政府関係者、財界人、復興ビジネス関連業者、大手マスコミなどがやはり現地入りするだろう。自衛隊も米軍も彼らを守るわけではない。ならば、彼らは民間軍事会社を雇わねばならない。今、民間軍事会社は英米軍を卒業した人たちが運営しているので、英語しか通じない。現地に「日本語が通じる民間軍事会社」があったら…。これはビックビジネスにつながるのだ。
インターネット上の「きっこのブログ」に興味深い記事が出ていた。湯川氏の民間軍事会社の背後に、自民党政治家の姿が垣間見えるのだ。まず彼はあの田母神俊夫氏と握手している写真をアップしている。またネット上の知り合いとして、官房長官の菅義偉氏、自民党右派の西田昌司氏の名前が出て来る。そして彼の民間軍事会社の最高顧問は、元茨城県議で自民党水戸支部長の木本信男氏、そして2世議員で自民党水戸市議の木本信太郎氏の事務所の住所と、湯川氏が立ち上げた「アジア維新の会」の募金宛先が一致しているのだ。
2人目の顧問も自民党東京比例ブロックから出馬した国安正昭氏の名前が挙がっている。①戦争の民営化⇒②民間軍事会社というビジネス⇒③集団的自衛権で日本も米英と同じように参戦。湯川さん拉致事件の背後に「戦争屋の野望」が見え隠れするのだ。


トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 湯川さん事件の背後にあるもの

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.nowiraq.com/mt/mt-tb.cgi/546

コメントする

このブログ記事について

このページは、nishitaniが2014年9月14日 18:28に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「元気になってアフガンへ帰る子どもを見送る」です。

次のブログ記事は「人質事件の私的検証」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.01