トルコリラ急落の背景

トルコリラ急落を受けて、報道が少し国際的になっている。この間、この国ではボクシング、アメフト、レスリング、そして紀州のドンファンばかりだったので、(苦笑)ちょっとだけ外向けになって少し嬉しい。
私は2年前のトルコクーデター未遂事件を取材したことがあって、この事態を少しばかり分析してみたい。今回のトルコリラ急落は米国とトルコの対立にあるのだが、その背景にあるのは7年間に及ぶシリア内戦だと思う。まずは、2年前に京都新聞に書いたコラムをお読みいただきたい。

2016年8月14日から22日までトルコに入った。7月15日に起きたクーデター未遂事件を取材するためだ。トルコは発展途上国ではなくG20に加入しているし、最大都市イスタンブールは、東京とオリンピックを争ったほど。そんな国の、選挙で選ばれた政権を軍事クーデターでひっくり返す、という「ありえないこと」が起こったのだ。
当日の出来事を時系列で振り返ってみよう。15日午後9時過ぎ、イスタンブール、ボスフォラス海峡に架かる大橋に戦車が現れる。大橋はアジアとヨーロッパをつなぐ交通の要衝。そこをクーデター軍が占拠したのだ。続いて軍はTRTワールドというテレビ局になだれ込み、通常放送をストップさせ「クーデター勝利宣言」を発表。同時刻、休暇中のエルドアン大統領がエーゲ海に面したホテルを脱出。ホテルはその10数分後に空爆されているから、脱出がもう少し遅かったら大統領は暗殺され、クーデターは成功していただろう。
首都アンカラでは国会がF15戦闘機で空爆された。大統領はCNNテレビにスマートフォンで出演、国民に対して「外へ出てクーデターを阻止しよう」と訴えた。何十万という人々が外へ出て戦車の前に立ちふさがった。約290名が射殺され1400名以上のけが人が出たが、人々は抵抗をやめなかった。翌16日未明、クーデター軍が投降を始める。こうしてクーデターは「未遂」におわった。
日本で言えば、永田町が空爆され、一時的にせよNHKが乗っ取られたようなもの。しかしこの大事件は、リオオリンピックや甲子園、スマップ解散などであまり報道されなかった。
当然クーデターが失敗すれば首謀者たちは死刑かそれ相当の処罰を受ける。「勝利の展望」がなければ決行しない。では「そのお墨付き」を与えたのは誰か?私は「米国かロシアしかありえない」と思った。
トルコの国会議員、ジャーナリスト、シンクタンク、テレビ局などを取材して「それは米国だ」と確信した。彼らの証言をまとめてみると①首謀者は米国亡命中のギュレン師である。彼はイスラム指導者で、1960年代からモスクの中に貧しい若者用の寄宿舎を建て始める。②70年代、そんな若者たちのために予備校や大学を開校し、トルコ中に弟子が増えた。今やギュレン師派はトルコ内外に100万人!もいる。やがてギュレン師は弟子たちを軍隊や警察、裁判所などに送り込み、権力の中枢を握り始める。③90年代に旧ソ連が崩壊、ギュレン師は英語教師をロシアに送り込む。その中にCIAの関係者がいて、ギュレン師と米国は情報交換を始める。④シリア問題でエルドアン大統領は急速にロシアに接近、米国はトルコに手をやくようになる。一方ギュレン師は大統領と激しく対立、政党を持たないギュレン師にとって、選挙での体制転覆は無理だった…。
ギュレンという人は、なんと40年以上かけて軍や警察、官僚たちを、つまり権力の中枢を支配してきたのだ。だからこそ大規模なクーデターが可能だった。
さて今後の中東はどうなっていくのか?相対的に米国の力が衰え、ロシアが台頭してくるのは間違いないだろう。

以上が2年前に書いた「トルコクーデター未遂事件」の顛末である。では「なぜ米国がトルコの体制を破壊しようとしたのか」について、シリア内戦との絡みで分析してみたい。

一般的に言って、シリアのアサド政権は反米だと言われている。確かにアサド政権はロシア&イランの支援を受けているので、その意味では「反米」である。米国とイスラエルにとっては、アサド政権は攻撃対象だ。
しかし今回のシリア内戦において、アサド政権を倒そうとしているのはイスラム勢力であり、その中心にいたのが「ムスリム同胞団」だった。この「ムスリム同胞団」こそ、イスラエルの天敵。ガザ地区を支配するハマスは、かつて「ムスルム同胞団ガザ支部」であった。簡単に言えば米国とイスラエルの本音は「アサドはダメ。しかしシリアの反体制勢力はもっとダメ」なのだ。だからシリア内戦において米国とイスラエルは、反体制勢力を支援するふりをしながら、反体制派を勝たせないで「どちらも長い内戦で疲弊させよう」と考えている。そして事態はその通りに進み、シリア内戦は8年目を迎えている。
当初トルコは、シリアの反体制派を支援していたが、米国とイスラエルの狙いを見破り始める。天敵であったアサドの存続を認めるしかないと判断したトルコは、ロシアに急接近する。これが米国は気に入らない。なので、エルドアン大統領の天敵ギュレン氏をそそのかせてクーデターに導いた、というのが私の見立てである。「敵の敵は味方」なのだ。エルドアンは独裁化して多くの民主化を求める人々を弾圧している。私も2016年11月にイスタンブールで入国を認められず強制送還になった。個人的には、こんな大統領は早く代わってくれ、と願う。しかし米国も同じような独裁者が大統領になっている。結局、このトルコリラ急落で得をしたのは、「政治的ネタを事前に察知できる投資家」ではなかったか?
リラ急落と株価の急下落、急上昇で大儲けをした人たちがいるのではないか?
基本的には軍産複合体とヘッジファンドなどは「世界が安定したら商売にならない」のだ。エルドアンとトランプの独裁化によって庶民が塗炭の苦しみを味わい、一部資本家が巨額の富を貪る。この構図が今回の騒動の本質なのかもしれない。

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このページは、nishitaniが2018年8月14日 22:02に書いたブログ記事です。

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