毎日新聞2004イラクレポート(6)

掲載日:2005年10月11日

そして石油省が残った

石油省だけが残って、その前で警備する米兵と子どもたち。それ以外の主要な施設、例えば電話局は完全に空爆されている。さらに携帯電話の店が雨後のたけのこのように伸びてきている。これらは全てアメリカの利権である。
石油省だけが残って、その前で警備する米兵と子どもたち。
それ以外の主要な施設、例えば電話局は完全に空爆されている。
さらに携帯電話の店が雨後のたけのこのように伸びてきている。
これらは全てアメリカの利権である。
携帯電話
携帯電話

バグダッドには旧フセイン時代の省庁が集中して建っていた。今回のイラク戦争で、アメリカはことごとくそれらを空爆した。国防省、秘密警察署、外務省、サダムタワー…。数百キロ離れたペルシャ湾からのトマホークミサイルが、ピンポイントで当たっている。アメリカの軍事技術は驚異的レベル。そうした「人類最高の技術」を、戦争ではなく平和的に使ってほしいものだ。そんな省庁の中で、唯一空爆されなかったのが石油省。ぽつんと残った茶色のビルは遠くからでも目立つ存在で、今は米軍ががっちりガードしている。開戦前ブッシュ大統領は、「大量破壊兵器」や「フセイン政権打倒」などともっともらしい理由をのたまっていたが、これほど「分かりやすい」戦争はない。

日本人3人が人質になった頃、外国人が泊まっている普通のホテルがロケット砲で狙われだした。「アメリカやイギリス人が宿泊している」からだ。宿泊しているアメリカ人は軍人ではなく、普通のビジネスマン。ブッシュ肝いりのハリバートンという石油会社や急速に普及しつつある携帯電話会社に勤める企業人だ。ゲリラ側から見れば「勝手に空爆した後で、俺たちの石油を盗みに来たヤツら」だから、狙われてしまう。

ハリバートン社の役員はチェイニー副大統領

電電公社 空爆
電電公社 空爆

実際、今のイラクは「おいしい市場」だと思う。ハリバートンは石油で巨額の収益を上げているし、空爆されたビルを建て直すためにゼネコンが活躍する。発電所や電話局も空爆されており、ライフラインを整備する企業も必要だ。因みにその予算は私たちの税金、イラク復興支援費から出ているので、資金は潤沢にある。フセイン時代にはなかった携帯電話が急速に普及しているので、セルラーホンの企業も笑いが止まらないだろう。

こうした一連の事態を逆から、つまり侵略されたイラク人の側から見れば、「石油があったからこその悲劇」となる。ほとんどのイラク市民は「ただ平和に過ごしたいだけ」「これ以上無実の者を殺さないでほしい」と願っている。アメリカは当初の目的、「石油利権」を手にしたのだから、早急に軍隊を引き上げるべきである。後は?国連があるではないか。スンニ、シーア、クルドの3大勢力が納得できる形で権限委譲できるのは、アラブの国も多数参加した国連でないと難しいのではないか。中東はもともと英、仏、独が分割統治した歴史を持つ。国境線が定規で引いたようにまっすぐなのは、そのためだ。そんな屈辱的な歴史があるからこそ、アラブのことはアラブで決めたい、と人々は感じている。

「あなた方に平和がありますように」

アッサラームアライクム、イラクでの「こんにちは」で、直訳すると「あなた方の上に平和がありますように」という意味だ。アラビア語はコーランによって広まっていったので、同じあいさつがパレスチナでも交わされている。9・11テロ後、なにか「イスラムの人々はすべて怖い人」のような宣伝がなされたが、素顔のムスリムは、平和を愛し、人間を大切にする人々だ。イスラム対キリストのような「文明の衝突」ではなく、多民族多文化共存の世界こそが、21世紀に私たちがめざす社会ではないだろうか。